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【エンジニア学生 深セン派遣プロジェクト レポートvol.5】LINEとの比較におけるWeChat

この記事を書いた人伊藤 遼 / 東京大学大学院

2018年11月にITエンジニア学生を中国のIT都市・深センに派遣するプロジェクトを実施しました。派遣された学生の現地調査レポート第5弾を公開いたします。


本記事は、ジースタイラスさんのTechQuestに参加させていただいたレポートになります。

1. WeChatとは

WeChat(微信 weixin)とは、Tencentが2011年にリリースしたメッセージアプリです。2018年現在の月間アクティブユーザー数(Monthly Active Users, MAU)は10.82億とInstagramに匹敵する規模を誇りますが、ユーザーの8割以上は中国人、国外における用途も大半は中国人とのコミュニケーション用途だといわれており、さながら「中国版LINE」ということができそうです。MAUについて各種SNSを比較した結果を図1に示します。


図1:各種SNSのMAUの比較。図は*1*2*3より筆者作成。

本稿では、そのように何かと比較されがちであるWeChatとLINEについて、機能やマーケティングの面で比較を行います。

2. 機能面の比較

WeChatにあってLINEにない機能

チャット関連

  • 翻訳:中国語と英語のチャットについては翻訳をすることができます。
  • スタンプ:他人が作ったスタンプは自由に使用できますし、自分で作ることもできます。
  • ラッキーマネー(红包):お年玉やチップのような感覚で送金を行うことができます。受け取れる金額は設定した上限値の範囲内でランダムに設定されます*4


図2:WeChatでの画面操作の様子。左3枚は翻訳、一番右はスタンプリスト。図は筆者作成。

ミニプログラム(小程序)

WeChat上に構築できるウェブサイト、アプリのようなもので、主にチェーン店が支払いアプリを提供しています。 スターバックスを脅かす存在として注目を集めるLuckin Coffeeが注文環境を提供するのもこれです。

お店での会計以外にも、スプレッドシートアプリなど多様なアプリが提供されています。環境を整えれば個人が開発を行うことも可能です*5

モーメント

モーメント機能自体はLINEにも存在しますが、中国ではFacebookやTwitterに似たSNS機能をWeChatのモーメントが担っています。

LINEにあってWeChatにない機能

本稿はLINEの紹介をするわけではないので列挙にとどめますが、比較という観点から紹介します。

Live配信 / ギフト / ミュージック / Face Play / QUICK GAME / 投票 / 日程調整 / あみだくじ / JUNGLE PANG / ジフマガ / Tenor GIFs

ただ、これらはあくまでもWeChatの機能として存在しないというだけで、連携アプリがこれらの機能を担っている場合が多いです。

機能面では、LINEとWeChatにそれほど大きな違いはないことがうかがえます。

3. 送金機能の普及度

機能面ではそれほど大きな違いはないWeChatとLINEですが、特に送金機能について普及率に大きな差が存在します。 LINEはLINEPayのMAUを2019年に「現在の2倍以上」の1000万まで拡大したいとしていて*6、具体的な数値は公開されていないものの2019年1月現在ではMAU500万を下回っていることがわかります。これはLINEのMAU2億1700万のおよそ2%です。

一方のWeChatPayも具体的なMAUは公開されていませんが、ユーザー数は約6億人にのぼるとされていて*7、単純比較はできませんがWeChatのユーザーの半数近くがWeChatPayも利用していることがわかります。

送金機能について普及率に大きな差が生じる原因の一つとして、支払いシステムを導入するために店舗が支払う手数料がWeChatでは無料である*8ということがあげられます。 支払いシステムのビジネスモデルは主に加盟店からの手数料で成り立っているとされている*9ものの、WeChatは以下のような戦略の上に成り立っています。

  • ミニプログラムの手数料によって収入を得る
  • 国民の2/3がWeChatを通じてやり取りをしているといわれるため、利子や投資によってかなりの利益を生むことができる
  • Tencentの他のサービスの顧客獲得のために用いることができ、マネタイズを主目的とする必要がない

Tencentはしいて言えばゲーム会社であり、自社のゲームについて広告料を支払わずに大多数の国民に宣伝を行うことができるのは、プラットフォームを握っている者の大きなアドバンテージであるといえます。 実際、給料の半分を娯楽に使う国民性を生かし、エンタメが充実していない田舎のユーザーにWeChatを使ってアプローチすることができるとのことでした。

LINEでも2018年に「3年間は手数料0%」とするキャンペーンを開始していますが、3年後の手数料については「調整中」とのことでした*10

4. 考察・まとめ

LINEとWeChatで機能面に大きな差は見られませんでしたが、WeChatは現地の人の文化に寄り添った設計で中国人の支持を得ているといえます。 中国は特に人口が多く、自国の国民の支持が得られればそれでプロダクトが成り立つということもできると思いますが、 逆に言えばWeChatはあまりにも中国人向けのアプリとなってしまっていて、これがWeChatが世界に拡大できない理由の一つになっているともいえます。

LINEに関しては、新機能を次々とリリースしている一方でその普及率が課題になっていますが、 WeChatのとる、「マネタイズのためのアプリではない、ゲーム会社が作るSNS」という手法については学ぶことがあると感じました。

5. 謝辞

今回深圳へ渡航する機会をくださったジースタイラスのみなさま、渡航前からレポート作成までアドバイスをくださったTencent岩瀬さんに、この場を借りて感謝いたします。ありがとうございました。

この記事を書いた人伊藤 遼 / 東京大学大学院
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