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【創業ストーリー】あの背中を追って-中編

全3回に分けて、ジースタイラス代表・折阪のストーリーをお届けします。

第三章 ギャル向けの雑誌作り

僕は朝からずっと、渋谷109の前で、ガングロのギャルに声をかけている。「ちょっと話を……」
さっきまでタラタラ歩いていたのに、近づいて話しかけると足早に通り過ぎてしまう。こちらが話を聞こうとするより前に、全く聞いてもらえない。
Eduの活動で個人に向き合うことに限界を覚え、僕は働くことに目を向けようとした。どうせ働くなら、楽しく、おもしろいことがしたい。そのために目指すべくは、クリエイティブなことだろうと考えた。
そう思うと、今までまったく目を向けていなかったことに興味が出始めた。世の中の流れ、ヒット作、売れている商品。流行など。そこに目を向けると、その真ん中にはギャルがいた。日焼けサロンに通い、さらに黒いファンデーションをして、派手なファッションをするガングロのギャルたちが、まさに時代や流行を動かしていたのだ。
まずは、ギャルに話を聞くべきだろう。雑誌やテレビで情報を集めても仕方がない。本当の声を聴かなくては。それは、ノンフィクション作家に感銘を受けたその時から、変わらない僕のポリシーだ。
ピースボートでも、Eduの活動でも、みんな話を聞かせてくれた。だから軽く見ていたのかもしれない。一方でギャルたちは、話しかけても立ち止まってさえくれない。それ以前に、こちらをちらりとも見ないのだ。
夕方には、声をかけたのは百人を超えていた。今日はもう無理だろう。ただ、なんとしても、ギャルの話を聞くんだ。彼女たちが興味を持って立ち止まるためには、何が必要なんだろう。
「名刺作ってくれない? 雑誌の編集者ってことで」
「名刺デザイン? いいけど。雑誌の名前は?」
「えーと、そうだな……」
「なに、今から考えるの?」
「『Stylish』ってどう? 悪くないよね」
「まあ、スタイリッシュではあるよね」

友だちのデザイナーはそう言って、電話の向こうで少しだけ笑った。

・・・・・・・・・・・

数日後にメールで見せてもらったデザインは、ちゃんと会社の名刺っぽかった。印刷業者に発注して、届くのが待ち遠しかった。

一週間後に届いた名刺を持って、渋谷109へリベンジに向かう。雑誌に出られるかもしれないとなったら、話を聞いてくれるんじゃないだろうか。
「『Stylish』っていう雑誌の者なんですけど……」
名刺を見せながら声をかける。チラリと見てくれる人もいた。ときどき立ち止まってくれる人もいた。

二人組の子が話を聞いてくれそうだ。
「雑誌でインタビューのページがあって、ギャルの子たちに話を聞いてるんです」
「どうせエロ本なんでしょ」
「いや、そうじゃなくて」
「じゃあ何の雑誌?」
「ええと……ファッションとか」
「ねえ、なんか怪しいよ。行こ」
ちょっと立ち止まってくれても、聞いたこともない雑誌では対応してくれない。その日も百人くらいには声をかけたが、まともに話を聞かせてくれる人はいなかった。再度、別の作戦を考えなくてはならない。

もしかして、実際に見せられる雑誌があればいいんじゃないだろうか。Eduで印刷物も作っていたから、やり方はわかっていた。どんなページなら、ガングロのギャルたちが出たいと思うだろうか。

当時、109はギャルの聖地だった。最も人気があるのは、「MOUSSY(マウジー)」という店。店長はカリスマと呼ばれ、テレビや雑誌にもよく登場していた。無理かもしれないが、ダメもとで、MOUSSYの店長にインタビューを申し込んでみよう。 ちょうど名刺を持っているから、取材を申し込むのにちょうどいい。

その足で、MOUSSYの店へ向かった。
「すみません。取材の申し込みで来たのですが」
ギャルたちと同じように、肌の黒い店員に声をかける。
「あ、はい。ちょうど担当のものがおりますので~」
まさか。偶然にも広報担当者が店にいたのだ。

「今度『Stylish』っていうギャル向けの雑誌を作る折阪と申します。創刊号の巻頭ページに、MOUSSYの店長に出ていただきたいのですが」 広報担当の女性は名刺を見ると「え、巻頭? それならいいですよ」とあっさりと答えた。
「来週月曜日のオープン前はいかがですか」
なんと、話が早い。

・・・・・・・・・・・

帰宅すると、名刺を作ってくれたデザイナーの友だちに急いで電話をした。雀の涙ほどの額で、写真撮影とページデザインを依頼した。
約束した日にMOUSSYのカリスマ店長の取材が無事終わると、その内容が掲載された雑誌のサンプルはスムーズにできた。それを手にまた109前へと訪れる。ようやく、ギャルの話が聞けるはずだ。

「え、MOUSSYじゃん」
「MOUSSYと同じ雑誌に載れるの?」
「読モ? マジで~」
これまでとはまったく違う反応だった。

定型的なインタビューのほかにも、ギャルの子たちにいろいろな話を聞いた。「将来は、ショップ店員になりたい」「見た目ギャルでも働ける場所があるといい」そんな風に言っている子が多かった。

ギャルの子たちの要望を組み合わせれば、雑誌の制作費もまかなえるかもしれない。彼女たちが働けるような企業にスポンサーになってもらおう。幼稚園や遊園地など、見た目がギャルでも雇ってくれそうな場所に足を運び、広告を出してもらうことにした。

109に入っている他の店舗にも取材をして、誌面を充実させた。『Stylish』はギャルと親和性の高い美容院やショップなどに置いてもらった。

かなり満足だった。雑誌という「形」ができたのも、「ギャル」という最先端の人たちに話を聞くことができたのも。だが、ずっと続けても進展しそうな気がしなかった。結局、僕はギャルの気持ちがわかるようになるわけではない。ギャルの気持ちがわからないまま、雑誌を作り続けることはできないだろう。

もっと違う形で、彼女たちの手助けができないだろうか。

第四章 女子高生向けのイベント

雑誌に掲載するためにたくさんのギャルに話を聞いていくうちに、僕の手元にはギャルのデータベースができていた。年齢層は、高校生がもっとも多い。進路を迷っている彼女たちの助けになるようなことはできないだろか。しかも、ビジネスとして。
『Stylish』の営業で、専門学校へ行ったこともあった。広告は出してもらえなかったが、学生を集めるのに苦労をしているとは言っていた。
それなら、女子高生向けにイベントをやろう。女子高生の参加は無料で、専門学校に費用を出してもらえばいい。

イベント会場では、たくさんの女子高生たちが、いろいろなブースに集まり、塊になっていた。ブースの数は三十くらい。
「あれなんだろう。人混みができてる」
「ヘアメイクじゃない? 行ってみよう」
制服を着た二人組が足早に向かったブースに、僕も近づいてみる。彼女たちのの邪魔にならないよう、隙間から中の様子をうかがう。

そこは、ヘアメイクの専門学校のブース。その学校を卒業したプロのヘアメイクアップアーティストが、デモンストレーションをしていた。モデルにメイクをして、美しいヘアスタイルに仕上げている。モデルは真っ白のドレスを着ているから、ブライダル系なのだろう。

ガングロだったり、ガングロでなかったりする女子高生たちが、それを囲んで真剣な目で見つめていた。渋谷の街を歩いたり、雑誌に載るために写真を撮っているときとは、全く違う表情。彼女たちには、プロとして働く人生の先輩たちがどのように見えているのだろうか。

「この学校のパンフレットもらおうかな」
「私も。もらっていこー」
別のブースでは、美容師がモデルの髪を美しくブローしていた。また、キャビンアテンダントが機内アナウンスのデモをしているところもある。

そんなふうに各専門学校の卒業生がデモをすることで、女子高生は卒業後の進路が具体的にイメージできる。先をイメージしたうえで、学校を選べるのだ。「とりあえず進学する」ではない進路の決め方ができるはずだ。

イベントは大成功だった。女子高生たちも、専門学校の人たちも、満足度が高かった。学校側から見ると、普段は自分たちの学校を知らない高校生に情報を届ける機会が圧倒的に少ないから、貴重な機会だ。たくさんの学校を一気に集めることで、もともとその学校に興味がなかった子にも見てもらえる可能性がある。

ブース出展ひとつにつき、十万~二十万円ほど出してもらっていた。人件費を除けば、収支はトントンというところだ。

プロジェクトメンバーを募ったり、営業をしたり、イベント会場を探したり。そんなことをしているうちに、学生より社会人と知り合う機会が多くなった。
「どうやって営業してるんですか?」
「収支はどうなっているんですか?」
そんなふうに質問を受けることも多かった。
そんな中「うちの社長に会ってみない?」と言う人が現れた。事業計画書を作って持ってきてほしいという。

「学生でヤバい奴がいるって噂を聞いてさ」
通された会議室で名刺交換をした後、三十代くらいの社長が椅子に座りながら言う。僕を紹介してくれた企画室長が隣に座っていた。
「いや、ヤバくはないです」
僕はそう答えてから、事業計画書を取り出した。ホチキスで止めた数枚の用紙を見せる。そこには、右肩上がりのグラフ。売り上げアップを見込むことが、事業計画だと思っていたのだ。
二枚目には、事業コンセプト。

働く疲弊した大人たちをなくす
若い人と企業をつなぐ

「就職オーディション」

企画室長は、「これしかないの?」とでも言いたそうに、何度もページをめくって、用紙の裏表を確認した。一方で、社長はまじめな顔で見つめている。
「これって、どうやるの?」

僕は、女子高生向けに開催したイベント「ドリームズファクトリー」からヒントを得て、会社説明会ではない方法で企業と学生の出会いを作る事業を説明した。
「それで、学生が集まる?」
「企業がお金出さないんじゃない?」
僕の説明に対して、甘いところをたくさん指摘された。
「もう少し詰めたら、うちの会社で一緒にやろうよ。可能性あるよ」
「そうですか。ありがとうございます」

そう答えたが、まだ就職するつもりはなかった。だけどこうして、社会人が事業計画にアドバイスをしてくれるなんて驚きだった。僕はこれに味を占めて、何人かの社会人に見せては事業計画書をブラッシュアップしていった。

文 栃尾江美
絵 山本麻央

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